ちどまると、不思議《ふしぎ》そうな顔をして、或はあきれたような顔をして、紳士を見返り、見送った。
すると紳士は、いよいよわけが判らないというような顔をしながら、少からずうろたえはじめ、急にいそぎ足になった。
と、その体から立ちのぼる芳香《ほうこう》は、自ら捲《ま》きおこした風に乗って、いよいよひろまり、一層多くの人びとが立ちどまって、不思議そうに紳士を見詰《みつ》めはじめた。
紳士は、泣き出しそうに顔をしかめた。が、急に今度は、真ッ赤になると、歩きながらしきりとなにかブツブツいいはじめた。そして前よりも一層はげしくうろたえはじめ、あわてた足どりで、プラット・ホームから地下道へ、地下道から駅の出口へと、折から爽《さわ》やかな五月の微風《びふう》に、停車場一面ときならぬ香水の嵐をまきおこしながら、かけ出して行った。
このような紳士が、駅の出口で、さっきから鼻をヒクヒクやりながら、待ちかまえているお巡りさんを、ごまかすことが出来よう筈はない。‥‥
その晩、東京のお家へ帰ったクルミさんのところへ、警視庁《けいしちょう》のえらいお巡りさんと、××銀行の支配人さんと、それから新聞社の人
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