りとおし》がありますが、その山の切口から珍らしく粗面岩が出ていますので、その部分の線路だけ、僅かですが、道床に粗面岩の砕石を使用しております」
「ははあ。するとその地点の線路は、勿論当駅の保線区に属しているでしょうな?」
「そうです」今度は助役が答えた。
「では、最近その地点の道床に、搗固《つきかため》工事を施しませんでしたか?」
「施しました。昨日と一昨日の二日間、当駅保線区の工夫が、五名程出ております」
 助役が答えた。すると喬介は、生き生きと眼を輝かせながら、
「判りました。――殺人に用いられた兇器は撥形鶴嘴《ビーター》です!」そして吃驚《びっくり》した一同を、軽く微笑して見廻しながら、「しかも、それは、当駅の工事用器具所に属するものです!」

          二

 私は、喬介の推理に今更の様に唖然としながらも、鶴嘴の一方の刃先が長さ約五|糎《センチ》程の撥《ばち》形に開いた兇器――よく汽車の窓から見た、線路工夫の振上げているあの逞しい撥形鶴嘴《ビーター》を、アリアリと眼の中に思い浮べた。内木司法主任も、私と同様に驚いたらしく、眼を大粒に見開いたまま、警察医の方へ臆病そうに
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