顔を向けた。すると今まで、相変らずポケット・ハンドをしたまま黙り込んでいた痩ギスの駅長が、ズングリした頬骨を突出しながら、熱心な語調で喬介に立向った。
「しかし、たとえそれらの鉱片が傷口に着いていたからとて、何もそれだけで、兇器を、あの切通で使った撥形鶴嘴《ビーター》であると推定されるのは、少し早計ではないでしょうか?――御承知の通り、砕石道床と言う奴は、砕石が角張っている点は理論的に言えば道床材料として大変好都合なんですが、何分高価なものですから我国では普通に使用されず、その代りに主として精選砂利を用いております。が、これとても又相当に値段が張りますので、普通経済的に施工するためには、道床の下部に砂交りの切込砂利を入れ、上部の表面だけに精選砂利を敷詰める方法、所謂――化粧砂利と言うのがあります。で、この、化粧砂利の下の粗雑な切込砂利に、石英粗面岩の細片を使用した道床が、つまり表面は普通の精選砂利でも、内部が石英粗面岩の切込砂利になっている道床が、H駅の附近にも数ヶ所もあるのです」
駅長はそう言って喬介の顔を熱心に見詰めた。が、喬介は、決してひるま[#「ひるま」に傍点]なかった。
「
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