ク機関車が本屋のホームを通過した時刻を、今ここで厳密に申上げる事は出来ないですが、何でもそれは、三時三十分を五分以上外れる様な事はなかったと思います。尚、機関車が下り一番線を通ったのは、恰度その時、下り本線に貨物列車が停車していたためです。――」
「すると、勿論そのタンク機関車は、本屋のホームを通過してしまってから、現場《ここ》で、一度停車したんでしょうな?」
喬介が口を入れた。
「そうです。――多分御承知の事とは思いますが、タンク機関車は他のテンダー機関車と違って、別に炭水車《テンダー》を牽引しておらず、機関車の主体の一部に狭少な炭水槽《タンク》を持っているだけです。従ってH・N間の様に六十|哩《マイル》近くもある長距離の単行運転をする場合には、どうしても当駅で炭水の補給をしなければならないのです。勿論73号も、此処で停車したに違いありません。そして、この給水タンクから水を飲み込み、そこの貯炭パイルから石炭を積み込んだでしょう」
チョビ髭の助役はそう言って、給水タンクの直ぐ東隣に、同じ様に線路に沿って黒々と横わった、高さ約十三、四|呎《フィート》長さ約六十|呎《フィート》の大きな
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