明であるため、既にH機関庫に打電して、屍体の首実検を依頼してある旨を陳述した。
恰度この時、先程の駅手が顕微鏡を持って来たので、喬介はそれを受取ると、整った照明装置に満足の笑《えみ》を漏しながら、警察医に機械を渡して、屍体の傷口に着いた砂片の分析的な鑑定を依頼した。そして再び振返ると、駅長に向って、
「では次にもうひとつ、今から約一時間前の犯行の推定時刻に、この下り一番線を通過した列車に就いて伺いたいのですが――」
すると今度は、チョビ髭の助役が乗り出した。
「列車――と言うと、一寸門外の方には変に思われるかも知れませんが、恰度その時刻には、H機関庫からN駅の操車場《ハンプヤード》へ、作業のために臨時運転をされた長距離単行機関車がこの線路を通過しております。入換用のタンク機関車で、番号は、確か2400形式・73号――だったと思います。御承知の通り、臨時の単行機関車などには勿論表定速度はありませんので、閉塞装置に依る停車命令のない限り、言い換えれば、予《あらかじ》め運転区間の線路上に於ける安全が保障されている以上、多少の時刻の緩和は認められております。で、そんな訳で、その73号のタン
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