》三|呎《フィート》と列の西に寄るに従って、雫と雫との間隔は一|吋《インチ》二|吋《インチ》と大きくなって、やがて吾々の視線から闇の中へ消えている。司法主任は、それらの雫の特異な落下点を指差しながら、機関車が給水のため此処で停車していた時に犯行が行われたに違いない、と附け加えた。喬介はそれにいちいち頷きながら聴いていたが、やがて、駅員達の方へ振返って、屍体発見並に被害者の説明を求めた。
 と、それに対して、ゴム引の作業服を着た配電室の技師らしい男が進み出て、自分が恰度午前四時二十分前頃に、交換時間で、配電室から下り一番の線路伝いに本屋《ほんおく》の詰所へ戻る途中、この場で、この通りに倒れている屍体を発見し、直《ただち》に報告の処置を執《と》った旨を、詳細に且つ淀みなく述べ立てた。が、被害者に就いては、一向に見覚えがない旨を附加えた。すると今度は、今まで助役の隣で、オーバーのポケットへ深々と両手を突込んだまま人々の話に聞き入っていた頬骨の突出た痩《やせ》ギスの駅長が、被害者は、W駅の東方約三十|哩《マイル》のH駅機関庫に新しく這入った機関助手である事は判るが、姓名その他の詳細に就いては不
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