刻までにはあの通り雪が降っていましたし、報告に接して急行した吾々《われわれ》係官の現場調査も、充分――いや、これはむしろ貴下方の御信頼に任すとして――、それにもかかわらず、この雪の地面には、加害者と覚しき足跡は愚か、被害者自身の足跡すら発見されなかったのです。従って私達は、ここで最も簡単にしかも合理的に、犯行の本当の現場を見透す事が出来るのです。即ち屍体は、推定時間当時に於てこの下り一番線上を通過した機関車から、灰掻棒で殺害後|突墜《つきおと》されたものに違いないと言う事――私のこの考え方を裏書してくれる確実な手掛りを御覧下さい」
 司法主任はそう言って、軌条と屍体との中間に当る路面に、懐中電燈の光を浴びせ掛けた。――成程、薄く積った地面の雪の上には、軌条から二|呎《フィート》程離れしかも軌条に平行して、数滴の血の雫《しずく》の跡が一列に並んで着いている。その列の尖端、つまり血の雫の落始まった処は、屍体よりも約五|呎《フィート》程の東寄にあって、其処には同じ一点に数滴の雫が、停車中の機関車の床から落ちたらしく雪の肌に握拳《にぎりこぶし》程の染《しみ》を作っている。そして二|呎《フィート
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