白い粉みたいなものが少しばかり着いていますね。何でしょう? 砂ですか?」
「そうです。普通地面のありふれた砂ですよ。多分兇器に附着していたものでしょう」
「成程。でも、一応調べて見たいものですね」そして駅員達の方へ振向いて、「顕微鏡はありませんか? 五百倍以上のものだと一層結構ですがね――」
 すると、私の横に立っていた肥っちょのチョビ髭を生《はや》したW駅の助役が、傍らの駅手に、医務室の顕微鏡を持って来いと命じた。
 喬介は、それから、固く握り締められたままの被害者の右掌や、少し膝を折って大の字に拡げられた両の脚などを、時折首を傾《かし》げながら調べていたが、やがて立上ると、今しがた部下の警部補と何か打合せを終えた内木司法主任に向って声を掛けた。
「何か御意見を承給《うけたまわ》りたいものですね」
 喬介の言葉に司法主任は笑いながら、
「いや。私の方こそ、貴下《あなた》の御援助を得たいです。が、まあ、とにかく捜査に先立って、大切な点をお知らせして置きましょう。と言うのは、外でもないですが、一口に言うと、つまり現場に加害者の痕跡が微塵もないと言う事です。何しろ、御承知の通り犯行の推定時
前へ 次へ
全35ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング