、加速装置《アクセンレーター》を最高速度に固定したに違いありません。そして給水タンクから貨物ホームへ、屋根伝いに逃げ去りながら、撥形鶴嘴《ビーター》をパイルとランプ室の間へ投げ捨てて行ったのです。一方、操縦室《キャッブ》の床に倒れていた井上順三の屍体は、機関車の加速度と、曲線《カーブ》に於ける遠心力の法則に従って、あの通りに投げ出されます。だが、ここで問題になるのは、何故犯人は[#「何故犯人は」に傍点]、犯行後機関車を発車させたか[#「犯行後機関車を発車させたか」に傍点]? と言う点です。が、この最後の疑問を突込む前に、僕は、いまひとつ、新しい発見を紹介しよう」と、それから喬介は明かに興奮を浮べた語調で、「この鉄蓋《やね》の上を見給え。いま吾々がこうしていると同じ様に、犯人も、必ず此処の上では匐《は》って歩いたのです。そしてしかも、あの重い撥形鶴嘴《ビーター》は、この通り、自分より少しずつ先へ投げ出す様にして運びながら匐進《ふくしん》したのです。それにもかかわらず、どうです、犯人の掌《て》の跡は、右掌だけで、何処を見ても左掌の跡はひとつも無いじゃあないですか。――つまり、犯人は、右手片
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