たのだ。やがて機関車が着くと、素速く梯子から機関車の框《フレーム》へ飛び移って、乗務員に発見されない様に、汽罐の前方を廻って反対側の框《フレーム》に匐《は》いつくばっていたに違いない。一方、機関助手の土屋良平は、そんな事も知らずに給水作業に取掛る。そして、あの恐ろしい機構《からくり》に引掛って路面の上へ俯伏《うつぶせ》にぶっ倒れる。すると操縦室《キャッブ》にいた井上順三が、何事ならんと驚いて、操縦室《キャッブ》の横窓から、半身を乗出す様にして覗き込む。と、そうだ。恰度その時を狙って、反対側の框《フレーム》に蹲《うずくま》っていた犯人は、素速く操縦室《キャッブ》に飛び込むと、井上順三の背後から、鋭利な短刀様の兇器で、力任せに突刺したんだ。――」
 すると今まで黙って聞いていた司法主任が急に眉を顰《ひそ》めて、
「じゃあ、つまり貴方は、機関車を動かしたのは、犯人だ、と仰有《おっしゃ》るんですね?」
「無論そうです。この場合、犯人以外には機関車を動かす事は出来なかった筈です。――従って犯人は、操縦技術を知ってる男で、犯行後再び機関車からこちらの梯子へ飛び移る前に、素速く発車|梃《てこ》を起し
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