ちらの一番線側の梯子口へ来ていると同時に、逆に、再び戻っているじゃないですか?」
 助役は、血走った眼で喬介の指差す方を追っていたが、やがてぶるぶる顫い出すと、あわてて腕時計を覗き込んだ。そして顫える声で、
「失敗《しま》った……大変なことになったぞ……」
 そう言ってそのまま蒼くなって、大急ぎで梯子を降りて行った。そして、保線係やH機関庫主任等を捕えて、乗務員なしで疾走し去った73号機関車が、その閉塞区間の終点であるN駅で、既に、当然惹き起したであろう恐るべき事故。そして又、そのために一体どんな責任問題が起るか――等々に就いて大騒ぎを始めた。

          五

 一方、鉄蓋《やね》の上の足跡を一心に調べていた喬介は、やがて私と司法主任に向って、
「じゃあ、犯行の大体の径路を、僕の想像に従って、話して見よう。――先ず、撥形鶴嘴《ビーター》を持った犯人は、あの貨物ホームの屋根から、ランプ室、貯炭パイルを伝って此処へやって来ると、先刻《さっき》の実験通り撥形鶴嘴《ビーター》に依る殺人装置を施して、蝙蝠《こうもり》の様にその梯子の中途にヘバリ着きながら73号のやって来るのを待ってい
前へ 次へ
全35ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング