喬介は梯子を降りて来て、今度は、規定の位置に停車している機関車の操縦室《キャッブ》へ乗り込み、そこから投炭用のスコップを持ち出すと、地面へは降りずに汽罐側のサイド・タンクに沿って、框《フレーム》の上を給水タンクの梯子と向合う処まで歩くと、ウンと力んで片足を給水タンクの足場へ掛け、機関車と給水タンクとの間へ大の字に跨《またが》った。
「さて。これから始めます。先ず私を、この事件に於ける不幸な第一の被害者、土屋良平君と仮定します。そして、タンク機関車73号に給水するため、土屋君は頭上に恐るべき装置があるとも知らず、この通りの姿勢を執《と》って、ここにぶら下っているこのズック製の呑口《スパウト》を、こちらの機関車のサイド・タンクの潜口《マンホール》へ向けて充行《あてが》い、給水タンクの開弁を促すために右|掌《て》でこの鎖を握り締めて、この通りグイと強く引張ります――」
喬介は本当に鎖を引張った。すると撥形鶴嘴《ビーター》は恐ろしい勢で、柄先を中心に半円を空に描きながら、喬介の後頭部めがけて落ちて来た。と、喬介は素速く上体を捻って、左手に持っていたスコップを、恰度頭の位置へ差出した。
ジー
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