の言葉には驚いたらしく、ひどく心配そうに蒼白い顔をして、亀の子の様に大きなオーバーの中へ首や手足をすくめる様にしていたが、間もなく本屋《ほんおく》の方へ歩いて行った。喬介は、一向平気に極めて冷淡な語調で、再び助役へ向った。
「時に、当駅に、73号と同じ形式の機関車はありませんか?」
すると助役は、一寸不機嫌そうに、
「ええ、そりゃあ、仕別《しわけ》線路の方には二輛程来ていますがね。……一体何ですか?」
「実地検証です。是非、一輛貸して頂きたいです。この一番線へ当時の73号と同じ方向に寄越して下さい」
で、助役はケテン[#「ケテン」に傍点]顔をしながら出掛けて行った。
間もなく、2400形式のタンク機関車が、汽※[#「竹かんむり/甬」、第4水準2−83−48]《シリンダー》から激しい蒸気を洩し、喞子桿《ピストン・ロッド》や曲柄《クランク》をガチンガチン鳴らしながら、下り一番線上を西に向って私達の前までやって来た。そこで喬介の指図に従って、路面上の血の滴列の起点の上へ、恰度|操縦室《キャッブ》の降口の床の端が来る位置に機関車が止ると、喬介は、給水タンクの線路側の梯子を真中頃まで登って
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