い――」
すると、今まで黙っていた喬介が、突然吹出した。
「……冗談じゃあない。内木さんにも似合わん傑作ですよ。ね。――もしも私が、その場合の犯人であったとしたなら、N駅へ着かない以前に、機関車を投げ出して、疾《とっく》の昔に逃げてしまいますよ。いや、全く、貴下の意見は間違いだらけだ。例えば、最初機関車がH駅を出発した当時から、犯人が被害者の二人と一緒に乗っていたものとすれば、第一の屍体の兇器、即ち昨日まで道床|搗固《つきかため》に使われ、当駅の工事用具所へ仕舞われたあの撥形鶴嘴《ビーター》を犯行後機関車の中からランプ室と貯炭パイルの間の狭い地面へ投げ捨てる事は出来るとしても、一体、何処からそいつを手に入れる事が出来ると言うんです。そして、又よしんばそれが出来得たとしても、犯人は何の必要があって、わざわざ当駅で停車中などに二人もの人間を殺害しなければならなかったのです。犯人が機関車に乗っていたのならば、何もこんな処で殺さなくたって、あの吹雪の闇を疾走中に、もっと適切な殺し場がいくらもあった筈ではないですか。――いや、この事件は、いま貴下が考えていられるより、もう少しは面白いものらしい
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