明であるため、既にH機関庫に打電して、屍体の首実検を依頼してある旨を陳述した。
恰度この時、先程の駅手が顕微鏡を持って来たので、喬介はそれを受取ると、整った照明装置に満足の笑《えみ》を漏しながら、警察医に機械を渡して、屍体の傷口に着いた砂片の分析的な鑑定を依頼した。そして再び振返ると、駅長に向って、
「では次にもうひとつ、今から約一時間前の犯行の推定時刻に、この下り一番線を通過した列車に就いて伺いたいのですが――」
すると今度は、チョビ髭の助役が乗り出した。
「列車――と言うと、一寸門外の方には変に思われるかも知れませんが、恰度その時刻には、H機関庫からN駅の操車場《ハンプヤード》へ、作業のために臨時運転をされた長距離単行機関車がこの線路を通過しております。入換用のタンク機関車で、番号は、確か2400形式・73号――だったと思います。御承知の通り、臨時の単行機関車などには勿論表定速度はありませんので、閉塞装置に依る停車命令のない限り、言い換えれば、予《あらかじ》め運転区間の線路上に於ける安全が保障されている以上、多少の時刻の緩和は認められております。で、そんな訳で、その73号のタンク機関車が本屋のホームを通過した時刻を、今ここで厳密に申上げる事は出来ないですが、何でもそれは、三時三十分を五分以上外れる様な事はなかったと思います。尚、機関車が下り一番線を通ったのは、恰度その時、下り本線に貨物列車が停車していたためです。――」
「すると、勿論そのタンク機関車は、本屋のホームを通過してしまってから、現場《ここ》で、一度停車したんでしょうな?」
喬介が口を入れた。
「そうです。――多分御承知の事とは思いますが、タンク機関車は他のテンダー機関車と違って、別に炭水車《テンダー》を牽引しておらず、機関車の主体の一部に狭少な炭水槽《タンク》を持っているだけです。従ってH・N間の様に六十|哩《マイル》近くもある長距離の単行運転をする場合には、どうしても当駅で炭水の補給をしなければならないのです。勿論73号も、此処で停車したに違いありません。そして、この給水タンクから水を飲み込み、そこの貯炭パイルから石炭を積み込んだでしょう」
チョビ髭の助役はそう言って、給水タンクの直ぐ東隣に、同じ様に線路に沿って黒々と横わった、高さ約十三、四|呎《フィート》長さ約六十|呎《フィート》の大きな
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