こそ感違いだよ。いいかい。まず第一、着物のことを考えて見たまえ。房枝はあの通り地味な着物を着ていたし、澄子は、あの通り派手な着物を着ていたし……」
「お待ち下さい」支配人《バー・テン》が遮切った。「つまり、そこんとこですよ。幽霊が出たと云うのはね……もう仕度が出来たと思いますから、これからひとつ、その幽霊の正体をみて頂こうと思いますが……」とむっくり起き上りながら、「……まだお判りになりませんか? 銀座の真ン中に出た幽霊の正体が……これはしかし、あの事件の起きた時の様子や、家の構えなどを、よく考えて見れば、誰にでも判ると思うんですが……」
支配人《バー・テン》はそう云って、意地悪そうに笑うと、呆気《あっけ》にとられている警部達を残して、階下《した》へ降りて行った。が、直ぐに自転車用の大きなナショナル・ランプを持って引返して来ると、窓際に立って警部へ云った。
「じゃア幽霊をお眼に掛けますから、どうぞここへお立ち願います」
警部は脹《ふく》れ面《つら》をして、支配人《バー・テン》の云う通り窓際へ立った。いままで、遠慮して遠巻にしていた女給や客達も、この時ぞろぞろと窓の方へ雪崩《なだ》れ
前へ
次へ
全29ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング