「じゃア君は、もう澄子を殺した犯人を、知ってると云うんだね?」
「ええ大体……」
「誰なんだね? 君は現場を見ていたのかね?」
「いいえ、見ていたわけではありませんが……あの時には、もう房枝さんは殺されていたんですから、あとには二人しかいないわけでして……」
「じゃア君子が殺したとでも云うんかね?」
 警部は嘲けるように云った。
「いいえ違いますよ」支配人《バー・テン》は烈しく首を振りながら、「君ちゃんは、もう貴方《あなた》がたのほうで、落第になってるじゃアありませんか」
「じゃアもう、誰もないぜ」
 警部は投げ出すように反《そ》りかえった。
「あります」と西村青年は笑いながら、「澄ちゃんがあるじゃアないですか」
「なに澄子?」
「そうです。澄子が澄子を殺したんです」
「じゃア自殺だって云うんか?」
「そうですよ」とここで西村君は、ふと真面目な顔をしながら、「皆んな、始めっから、飛んでもない感違いをしていたんですよ。死んでしまった後から発見《みつけ》たんなら、こんなことにもならなかったでしょうが、なんしろ、自分で自分の笛を掻き切って、もがき死にするところを、その藻掻《もが》き廻るとこ
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