剃刀を鑑識課へ廻した結果、その剃刀は柄が細くてハッキリした指紋が一つも残っていない事と、達次郎を引立てて調べた結果、達次郎がいつの間にか澄子と出来合っていて、そのために家の中が揉め合っていた事なぞが、判明したに過ぎなかった。
 ところが、そうして警察が五里霧中の境を彷徨《さまよ》いはじめようとするその日の夕方になって、ここに突然奇妙な素人探偵が現れて、係りの警察官に会見を申し込んで来た。
 それは、「青蘭」の支配人《バー・テン》で、西村《にしむら》と名乗る青年だった。ガリガリベルを鳴らして、せわしげに電話を掛けてよこした。
「……もしもし、警部さんですか。私は『青蘭』のバー・テンですが、幽霊の正体が判りました。澄子さんを殺した幽霊犯人の正体が、判ったんですよ……今晩こちらへお出掛け下さいませんか?……ええ、その折お話しいたします……いや、幽霊をお眼に掛けます……」

          三

「青蘭」の二階へ、部下の刑事を一人連れてその警部がやって来た時には、もう辺りはとっぷり暮れて、昨夜の事件も忘れたように、横町は明るく、ジャズの音《ね》に溢れていた。が、流石に物見高い市中のこととて
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