ですよ。少くとも食べかけたものなら、キャラメルなりチョコレートの、銀紙や蝋紙が捨ててある筈なんですが、さっき警官の来ない先に、探してみた時にはなにもなかったですよ。それに、あそこに転っている玩具は、みんな新しい品ばかりですし、第一長椅子の前に投げ出されてやぶれていたボール紙の玩具箱が、お茶なぞのこぼれた跡もないのに濡れていたのは妙です……あれは、あの蓋の上に少しばかりの雪が積っていて、室内の温度で解けたのではないかと思います。……そうそう、こんなつまらない事は云わなくたって……」と田部井氏はここで語調を変えて、今度はジッと私の眼の中を覗き込むようにして、「……不思議の材料は、始めから揃っておりますよ……とにかく、クリスマスの晩にですね……雪の上を、スキーに乗って……窓から出入して……それから、天国へ戻って行く……」
 田部井氏は、ふっと押黙って、もう一度私の眼の中を促すように見詰めながら、
「……いったい、何者だと思います?……」
「ああ」私は思わず呻いてしまった。「じゃアあなたは……あの、サンタ・クロースの事を、云っていられるんですか?」
「そうです。つまり、あの部屋へ……手ッ取早く
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