もう既に落ついてはいたが、その頃には益々落つきを増して、落ついているというよりも、なにかしきりに考え込んでしまった様子だった。いったい何を考え込んでしまったのだろう?
何か特別な考えの糸口でもみつけたのだろうか?
「田部井さん」私は思い切って声をかけた。
「いったいあなたは、どう云う風にお考えになりますか?」
「どう云う風に、と云いますと?」
田部井氏は顔を上げると、眼をぱちぱちさせた。
「つまりですね」私は向うの部屋のほうを見ながら、「あなたもご覧になれば判ると思いますが、ああいう惨酷なことをして子供を奪いとって逃げ出した男の足跡が、なんしろ、まるで空中へ舞い上ったように消えてしまってるんですからね。妙な出来事ですよ」
「そうですね。確かに妙ですよ。しかし妙だと云えば、この事件は、始めっから妙なことばかりですよ」
「ほう、それはまた……」
「あなたは、あの部屋に散らばっている玩具やお菓子を、始めから、つまりこんな出来事の起らない先から、あの部屋にあったものと思っていますか?」
「さあ、やはり前からあの部屋にあって、食べたり遊んだりしていたものでしょうな」
「私は、そうは思わないん
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