杉さんとはお識合《しりあい》の様に聞いております」
「すると、その三人の客人達は、今日の何時頃に銚子を発《たた》れたのですか?」
 大月の質問に、今度はカイゼル氏が乗り出した。
「それがその、調べて見ると正午の汽車で帰京しているんです。勿論《もちろん》、兇行時間に約一時間半の開きがありますし、各方面での今迄の調査に依れば、他に容疑者らしい人物がこの町へ這入った形跡は殆どないし、尚旅館の方の調査の結果、彼等は三人とも各々バラバラで随分勝手気儘な行動をしていたらしく、殊《こと》に上杉などは完全な現場不在証明《アリバイ》もない様な次第ですから、当局にしても一応の処置は取ってあります。――ところが、証人の陳述に依る加害者の風貌と、調査に依る上杉逸二の風貌とは、大変違うんです。つまり上杉は、被害者の岸田さんなどよりもまだ背の高い男なんです。だから、その意味で、上杉へ確実な嫌疑を向ける事は結局出来なくなるのです。――」
 茲で警官は、捜査の機密に触れるのを恐れるかの様に、黙り込んで了った。
 大月は秘書の秋田を顧みながら、内心の亢奮を押隠すかの様な口調で静かに言った。
「兎《と》に角《かく》、一度
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