露子《ひろこ》夫人とたった二人で充分な財産にひたりながら、相当に派手《はで》な生活を営んでいた。もともと東京の人で、数ヶ月前から健康を害した為|房総《ぼうそう》の屏風浦《びょうぶがうら》にあるささやかな海岸の別荘へ移って転地療養をしてはいたが、その後の経過も大変好く最近では殆《ほとん》ど健康を取戻していたし、茲《ここ》数日後に瑪瑙座の創立記念公演があると言うので、関係者からはそれとなく出京を促されていた為、一両日の中に帰京する筈になっていた。が、その帰京に先立って、意外な不幸に見舞われたのだ。――勿論《もちろん》、知己と迄言う程の深いものではなかったが、身寄のない直介の財産の良き相談相手であり同窓の友であると言う意外に於《おい》て、だから大月は、夫人から悲報を真っ先に受けたわけである。
 冬とは言え珍らしい小春日和で、列車内はスチームの熱気でムッとする程の暖さだった。銚子に着いたのが午後の一時過ぎ。東京から銚子|迄《まで》にさえ相当距離がある上に、銚子で汽車を降りてから屏風浦付近の小さな町迄の間がこれ又案外の交通不便と来ている。だから大月と秘書の秋田が寂しい町外れの岸田家の別荘へ着いた
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