いた。
 やがて私達の食事が始まると、熱い紅茶を啜りながら司法主任が喋り出した。
「事件は複雑ですが解決は容易ですよ。私は実地検証主義ですからね。それでですな――勿論、殺人は昨晩の十時から十一時までの間で行われ、今朝の零時から三時頃までの間に屋上から投げ墜されたものです。この時間と言い、戸締りが厳重で外部から侵入の余地がない点と言い、犯人は明かに店内の者です。いいですか、一層はっきり言えばですね、昨夜この店内にいた者と言うのです。勿論これはあなた方にだけ申上げるのですが、これから昨晩の宿直員を全部徹底的に調査します。ただ、ここで少し困難を感ずる問題は、首飾の一件です。もしも首飾を盗《と》った犯人が野口を殺害したものとすれば、何故犯人は首飾を遺棄したか? もし又首飾を盗った者を被害者自身とすれば、殺人の動機はどこにあるか? しかしこれらの問題を解決するためには、私は先ず首飾の指紋を検出して見ますよ。では、ご緩《ゆっく》り――」
 司法主任は、元気な挨拶を残し、部下の警官を従えて食堂を出て行った。
 今まで無言で食事をしていた喬介は、その口元に軽い微笑を浮べながら初めて口を切った。
「あの
前へ 次へ
全25ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング