下まで細密な捜索をするやら、いや全くこの一両日は大騒ぎでした。それがこの始末です。全く不思議です」
丁度主任の供述が終った時、屍体の運搬車が来て、三人の雑役係の宿直用務員が屍体を重そうに提《さ》げ、臆病そうにヨタヨタした足取りで運び出して行った。その様子を暫く名残り惜し気に見詰めていた喬介は、やがて振り返るや私の肩を叩きながら元気よく叫んだ。
「君、屋上へ行こう」
もう開店時間に間もないと見えて、どの売場でも何時の間にか出勤した大勢の店員や売子《ショップガール》達が、商品の上に覆われた白|更紗《さらさ》のシートを畳んだり、新しい商品を運んだりして忙しく立働いているのを、エレベーターの中から見渡しつつ間もなく私達は屋上へ出た。今までの陰惨な気持を振り捨てて晴れ渡った初秋の空の下に遠く拡がる街々の甍《いらか》を見下ろしながら、私は深い呼吸を反覆した。
喬介は、被害者野口が墜《おと》されたと思われる東北側の隅へ歩み寄り、腰を屈《かが》めてタイル張りの床を透かして見たり外廓を取り繞《め》ぐる鉄柵の内側に沿う三尺幅の植込みへ手を突込んで、灌木の根元の土を掻き回す様に調べたりしていたが、間
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