中へ吸い込み始める。すると渠門《きょもん》の近くの海中へ重《おもし》を着けられて沈められ、綱の長さでコンブ[#「コンブ」に傍点]見たいにふわりふわりしていた屍体はどうなる? 何《な》んの事はない面喰《めんくら》った魚と同じ事だよ。直径二尺五寸の鉄の穴に、傷だらけになりながら恐しい力で吸い込まれ、コンクリートの渠底《きょてい》へ叩き付けられるんだ。丁度《ちょうど》その日天祥丸のセーラーが、誤ってぶちまけたと言う機械油の上を、惰性[#「惰性」は底本では「隋性」と誤記]の力で押し流される。軈《やが》て船渠《ドック》が満水になると、渠門《きょもん》は開かれて天祥丸は小蒸汽《こじょうき》で曳《ひ》き出される。浮力の加減で船底《せんてい》にハリツイていた喜三郎の屍体は、その儘《まま》連れ出されて外海《そとうみ》へ漂流する訳だ。勿論《もちろん》、源之助の屍体がそんな眼に逢《あ》わなかったのは、屍体の位置と注水孔との距離の遠近とか、重《おもし》に縛られた綱の長短とかが影響していたに違いないんだ――。』
 喬介は語り終って莨《たばこ》の吸殻を海の中へ投げ込んだ。
『じゃあ一体、二人が矢島を強請《ゆす》っ
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