過ぎてしまったんです。
「……ふむ。先生、この張込みに感付いたな。よし。もうこの上は、直接十方舎へ乗り込もう」
とうとう助役は、そう言って不機嫌そうに立上りました。
やがて一行は、B駅から直ぐ次の旅客列車に乗ってH駅へ来ました。そしてもう夜の明け切った構内を横切って、十方舎へ行くべく機関庫の方へ歩いて行ったんです。と、どうした事でしょう、「葬式《とむらい》機関車」の「オサ泉」と助手の杉本が、テクテクやって来るんです。見れば、杉本の例の鼻の下の煤が、いつの間にか綺麗に拭き取られているんじゃないですか!
杉本は、一行を認めると大袈裟な顔付で、
「とうとう又|殺《や》っちゃいましたよ」
「なに又殺った※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
と、助役が思わず叫びました。
すると杉本は、
「ええ、確かに手応《てごたえ》がありましたよ。この駅のホンの一丁程向うの陸橋《ブリッジ》の下です。しかもねえ、機関車《おかま》の車輪《わっぱ》にゃあ、今度ア女の髪の毛が引ッ掛ってましたよ。豚じゃねえんです――」
で早速彼等は、十方舎の親爺の逮捕をとりあえず警官に任せて、大急ぎで逆戻りをしました。そして
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