うのが、全く助役の調査通りでして、例えば仕事をしながらも、溢れる様な慈愛に満ちた眼差《まなざし》でセカセカと娘の方を振返っては、「そんなに障子を明けると風邪を引くよ」とか、「さあ、お客様に汽車のお話でも聞くがいいよ」などと、それはそれはまるで触ると毀れるものの様にオドオドした可愛がり様を、一再ならず私は見せつけられたものです。……
ま、それはさておき、とにかくそんな調子でドシドシ洗い上げた片山助役は、やがて殆ど満足な結論にでも達したのか次の土曜日の夜には、正確に言うと日曜日――三月十八日の午前四時三十分には、もう涼しい顔をして、あの曲線線路《カーブ》の松林で、その娘の親爺を捕えるべく、例の二人の部下とそれからH署の巡査と四人で、黙々と闇の中へ、蹲《うずくま》っていたんです。
ところが、ここで片山助役の失敗が持上ったんです。と言うのは、四時四十二分に例の旅客列車が通過して、五分過ぎましたが、意外にも豚盗人はやって来ないんです。
十分、二十分、一行は息をひそめて待ちましたが、この前で懲りたのか大将一向にやって来ません。そしてとうとう肝心|要《かなめ》のD50・444号の貨物列車が通り
前へ
次へ
全44ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング