との事。尚又その娘のむしろヒステリカルな我儘は、最近|三月《みつき》、半年と段々日を経《へ》るにつれて激しくなって来たが、妙な事にはこのひと月程以前からどうした事かハタと止んで、その代りヘンに甘酢ッぱい子供の様に躁《はしゃ》いだ声で、時々古臭い「カチューシャ」や「沈鐘」の流行唄《はやりうた》を唄ったり、大声で嬉しそうに父親に話し掛けたりしていたとの事。ところが、それが又どうした事かこの四、五日前から、再び以前の様にヒステリカルな雰囲気に戻ったとの事――等々が、追々に明るみへ出されて来たんです。
――いやどうも、片山助役のこの徹底した調査振りには、少からず私も驚きましたよ。と言うのは、私も当時よくその家へ買物に出掛けた事があるんですが、全くその度毎にその娘は、障子の隙間から、顔だけ出して何とも言いようのないエロチックな笑いを浮べながら、あの薄い素絹を敷いた様な円《つぶ》らな両の瞳を見開いて、柔かな、でもむさぼる[#「むさぼる」に傍点]様な視線を私のこの顔中へ――それはもう本当に「ああいやらしいな[#「いやらしいな」に傍点]」と思われる位に、しつこく注ぎ掛けるのです。そして又その親爺と言
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