でもう一度静かな気持になって、その『最後の謎』を考えられるだけ考えてみよう」
で彼等は、素直に機関庫へ引挙げる事にしました。
そして片山助役は、翌日から彼の言明通り、あの陰気な十方舎の親娘《おやこ》の身辺に関して、近隣の住人やその他に依る熱心な聞き込み調査を始めたんです。
一日、二日とする内に――彼等は全く二人きりの寂しい親娘《おやこ》であって、生計《くらし》は豊かでなく近所の交際《つきあい》もよくない事。娘はトヨと言う名の我儘な駄々ッ児で、妙な事にはここ二、三年来少しも家より外へ出ず、年から年中日がな一《いち》ン日《ち》ああしてあの奥の間へ通ずる障子の隙間から、まるで何者かを期待するかの様に表の往還を眺め暮している事。そうした事から、どうやら彼女は、何か気味の悪い片輪者ではあるまいかとの事。そしてその父親と言うのが、これが又無類の子煩悩で何かにつけてもトヨやトヨやと可愛がり、歳柄《としがら》もなく娘が愚図り始めた時などは、さあもう傍《はた》で見る眼も気の毒な位にオドオドして、なだめたりすかしたりはては自分までポロポロと涙を流して「おおよしよし」とばかり娘の言いなり放題にしている
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