きます。ヘイ」
 と、そこで助役はすまし込んで花環を受取ると、代金を払って、そのままぷいと表へ出てしまいました。吉岡も早速助役の後に続いたんですが、門口《かどぐち》を出しなにチラッと奥を見ると、あの感じの陰気なその癖妙に可愛らしい娘は、まだ相変らず顔だけ出して、表の方を覗いていました。
 外へ出ると、助役達はもう十間程先を歩いています。で、吉岡は急いで追いつくと、その肩へ手を掛けながら、気色ばんで言いました。
「助役さん。あの親爺、とうとう毎土曜日の午後にB町へ行く事を白状したんですから、何故|序《ついで》に捕えちまわんです」
 すると、
「吾々は検事じゃないんだからな」と助役が言いました。「――無暗《むやみ》に急《あせ》るなよ。それに第一捕えるにしても、吾々は、どれだけ確固とした証拠を持っていると言うんだ。――成る程あの親爺は、確かに先夜君に追われた犯人に、九分九厘違いない。がしかし、いま捕えるよりも、もう二、三日待って今度の土曜日の真夜中に、例の場所で有無を言わさず現行犯を捕えた方がハッキリしてるじゃないか。あの親爺はまだまだ豚を盗むよ。何か深い理《わけ》があるんだ。さあ、土曜日ま
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