になって、何度も何度も聞かされた事なんですが。とにかく片山助役は、その娘を始めてチラッと見た時に、もう一生忘れる事の出来ない様な何ンとも彼《か》とも言いようのないいやあな[#「いやあな」に傍点]印象を、眼のクリ玉のドン底へハッキリと焼きつけられたんです。そしてこの奇妙な娘と言い、恐ろしく面ッ構えの変った親爺《おやじ》と言い……ははあン、成る程この家《うち》には、何か深い秘密めいた事情があるんだな……とまあ、直感って奴ですな、それを感じたんです。――いや、どうも私は女の話になると、つい長くなっていけません。
 さて、暫く黙ったままでそれとなく店中を眺め廻していた片山助役は、やがてその眼に喜びの色を湛えて、直ぐ彼等の横にあった水槽《みずおけ》の中の美しい色々の草花を指差しながら、盛んに花環を拵えている親爺へ、言いました。
「小父《おじ》さん。綺麗な花ですね。こんな綺麗な奴が、この寒空に出来るんですか?」
 すると親爺は一寸顔を挙げて、
「出来ますとも。B町の農蚕学校の温室でね――。土曜日の晩方《ばんがた》に行けば、貴方《あなた》達にだって売ってくれますよ。……さあ、出来上りました。六十銭頂
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