と、早速緑色のテープを巻いた小さな円い花環の藁台《わらだい》へ、白っぽい造花を差し始めたんです。そこで片山助役はギロリと室内を見廻しました。
 ――その仕事場の後には、成る程「貼菓子」らしい品物を並べた大きな硝子《ガラス》戸棚があって、その戸棚の向うには、奥座敷へ続くらしい障子|扉《ど》が少しばかり明け放してあるんですが、その隙間から、多分この店の娘らしい若い女が、随分妙な姿勢を執《と》っていると見えて、ヘンな高さの処から、こう顔だけ出して――もっともその女は、彼等がこの店へ這入って来た時から、もうそんな風に顔だけ覗かしていたんですが、こんなにも妙に心を魅《ひ》かれる顔を、助役は始めて見ました。髪は地味な束髪ですが、ポッテリした丸顔で、皮膚は蝋燭の様に白く透通《すきとお》り、鼻は低いが口元は小さく、その丸い両の眼玉は素絹《そぎぬ》を敷いた様に少しボーッとしてはいますが、これが又何と言いますか、恐ろしく甘い魅力に富んでいるんです。そして助役の一行を見ると、如何にもそれと判る無理なつくり笑いをしながら、とんきょうな声で、「いらっしゃいませ」と挨拶したんです。
 ――この事は後程《のちほど》
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