間もなく、H駅の西へ少し出外《ではず》れた轢死の現場へやって来たんです。
 恰度朝の事で、冷え冷えとした陸橋《ブリッジ》の上にも、露に濡れた線路の上にも、もう附近の弥次馬達が、夥しい黒山を作っていました。――その黒山を押崩す様にして分け入った一行の感覚へ、真ッ先にピンと来た奴は、ナマナマ[#「ナマナマ」に傍点]しい血肉の匂いです。続いて彼等は足元に転っている凄惨な女の生首《なまくび》を見ました。――頭顱《あたま》が上半分欠けて、中の脳味噌と両方の眼玉が何処かへ飛んでしまい、眼窩《めのあな》から頭蓋腔《あたまのなか》を通して、黒血のコビリ着いた線路の砂利が見えます。――でもその眼玉のガラン洞になった半欠《はんかけ》の女の顔を見ている内に、追々に彼等は、それが、あの、葬具屋の娘――である事に気付いて来たんです。
 それから彼等は、助役に引ッ張られて、顫《ふる》えながらもうひとつ奥へ進んで行きました。そしてそこで、線路の上へ転っているものを見た時に、一行は思わず嘔吐を催しました。
 ――それは、股の着根《つけね》から切断された両脚らしいものですが、殆ど全体に亙って太さが直径八、九寸近くもある
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