らも、ま、仕方なしにカーブの処まで戻って来ました。
 すると、「なに、構わないよ」と片山助役が呼び掛けました。「急《あせ》る事はないさ。それよりも、まず、この豚公を御覧よ……どうも僕は、ただ縄で縛って置くだけではそう何度もうまい工合に轢かれる筈はない、と最初から睨んでいたんだ」
 見ると、成る程豚は少し変です。四足を妙な恰好に踏ン張って時々頭を前後に動かしながら、苦しそうに喉を鳴らして盛んに何かを吐出しているんです。
「毒を飲まされたのさ」
 そう言って助役は、結んである縄を解き始めました。そして間もなく二人は、可哀想な豚を引摺る様にして、自動車《くるま》の待たしてある方角へ松林の中を歩き出しました。けれども途中幾度か激しい吐瀉《としゃ》に見舞われた豚は、自動車のある処まで来るととうとう動かなくなってしまいました。痙攣《けいれん》を起したんです。で、仕方なく側の立木へ縛って置いて、驚いている運転手へ彼等だけB町の派出所へ遣《や》る様に命じました。そして恰度二人が自動車へ乗った時に松林の向うを疾《はし》る汽車の音が聞えて来ると、
「あれがD50・444号の貨物列車だよ」
 と、助役が言い
前へ 次へ
全44ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング