のをくれてやりながら、下り線を越えて彼等の真ン前から少しばかり西へ寄った上り線路の上へ立止ると、白豚へ再び餌を与えてそれからクルリと周囲を見廻したんです。――どんな男だか、暗くてサッパリ判りません。
 やがて豚盗人は仕事に掛りました。五日前に此処で案内役の保線課員が彼等に話した推定は全く正しく、その通りに黒い男は豚を縛って、そしてその哀れな犠牲者の前へ沢山餌をバラ蒔いているんです。二人は静かに立上りました。そしてソロリソロリ歩き始めました。
 だが、ナンと言う事でしょう。ものの二十歩も進まない内に、吉岡の靴の下の闇の中で枯枝らしい奴が大きな音を立てたんです。吉岡はハッとなると、もう夢中で線路めがけて馳け出しました。
 瞬間――豚盗人は、一寸松林の方を振向いて、何でもこう鳥の鳴く様な異様な叫びを挙げると、いきなり円《まる》くなって線路伝いに馳け出したんです。吉岡は直ぐに線路に飛び出してその黒い影を追跡しました。けれども二丁と走らない内に、もう彼はその影を見失ってしまったんです。やがて、
「お――い!」
 と、助役の呼んでいる声が聞えました。
 で、吉岡は、何だか責任みたいなものを感じなが
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