ました。
 それから役等は[#「役等は」はママ]B町へ出掛けて安藤巡査に豚の処置を依頼すると、そのまま自動車《くるま》で、もうすっかり明け放れたすがすがしい朝の郊外を、H駅まで疾《はし》る事になったんです。
 車中で、吉岡は助役に訊ねました。
「あの豚は殺して解剖するんですか?」
 すると助役は、
「ううん。もう豚公には用はないよ。僕は、彼奴《あいつ》が食余《くいあま》した餌と毒を、手に入れたからね」とそう言って外套《オーバー》のポケットから、三、四枚の花の様な煎餅《せんべい》を出して見せました。それは斑《まだら》に赤や青の着色があって、その表面には小豆《あずき》を二つに割った位の小さな木の実みたいなものが一面に貼り着けてあるんです。
「先刻《さっき》の冒険の」と助役が言いました。「一番|主《おも》だった僕の目的と言うのは、始めからこいつにあったのさ。もっともこんな煎餅を手に入れようとは思わなかったがね。つまり僕は、――盗んだ豚を殺してからではとても一人では持てないから、生かしたままで線路まで連れて来て、さてそこで上手に汽車に轢かせる様にするためには、単に縄を枕木の端の止木《チョック》
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