、黒々と燻《すす》けた、古い、大きな姿体の機関車があります。形式、番号は、D50・444号で、碾臼《ひきうす》の様に頑固で逞しい四対《よんつい》の聯結主働輪の上に、まるで妊婦《みもちおんな》のオナカみたいな太った鑵《かま》を乗《のっ》けその又上に茶釜の様な煙突や、福助頭の様な蒸汽貯蔵鑵《ドオム》を頂いた、堂々たる貨物列車用の炭水車付《テンダー》機関車なんです。
 ところが、妙な事にこの機関車は、H駅の機関庫に所属している沢山の機関車の中でも、ま、偶然と言うんでしょうが、一番|轢殺《れきさつ》事故をよく起す粗忽《そこつ》屋でして、大正十二年に川崎で製作され、直《ただち》に東海道線の貨物列車用として運転に就いて以来、当時までに、どうです実に二十数件と言う轢殺事故を惹《ひき》起して、いまではもう押しも押されもせぬ最大の、何んと言いますか……記録保持者《レコード・ホルダー》? として、H機関庫に前科者の覇権を握っていると言う、なかなかやかましい代物です。
 ところでここにもうひとつ妙な事には、この因果なテンダー機関車にまことに運が悪いと言いますか、宿命とでも言うのですか、十年近くもの永い歳月に
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