のかですって?……いや、不思議なもんですなあ。恰度《ちょうど》一年前の三月十八日にも、私はH市へ行く車中で、やはり貴下の様な立派な大学生と道連れになりましてな、そして貴下と同じ様に、その事に就いて訊ねて頂きましたよ……これと言うのも、きっとホトケ様のお思召《ぼしめし》なんでしょう……いや、とにかく嬉んでお話いたしましょう。全く、学生さんは、皆んなサッパリしていられるから……。
――私が何故鉄道を退職《やめ》たか、そして何故毎年三月十八日にH市へ出掛けるか、と言いますと、実はこれには、少しばかり風変りな事情があるんですよ。でも、その事情と言うのが、見様《みよう》に依っては、大変因縁咄めいておりましてな、貴下方《あなたがた》の様に新しい学問を修められた方には、少々ムキが悪いかも知れませんが、でもまあ、車中の徒然《つれづれ》に――とでもお思いになって、聞いて頂きましょう。
――話、と言うのは数年前に遡《さかのぼ》りますが、私の勤めていたH駅のあの扇形をした機関庫に……あれは普通にラウンド・ハウスと言われていますが……其処《そこ》に、大勢の掛員達から「葬式《とむらい》機関車」と呼ばれている
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