亙って、機関車が事故を起す度毎《たびごと》に、運転乗務員として必ず乗込んでいた二人の気の毒な男があったんです。
 一人は機関手で長田泉三《おさだせんぞう》と言いましてな、N鉄道局教習所の古い卒業生で、当時年齢三十七歳、鼻の下の贋物のチョビ髭を取ってしまえば何処となく菊五郎《おとわや》張りの、デップリした歳よりはずっと若く見える大男で、機関庫の人々の間ではもろ[#「もろ」に傍点]に「オサ泉《セン》」で通用《とお》っていました。で、後の一人は、機関助手の杉本福太郎《すぎもとふくたろう》と言うまだ三十に手の届かぬ小男でして、色が生白く体が痩せていて、いつも鼻の下にまるで「オサ泉」の髭の様に、煤《すす》をコビリ着かせている奴なんです。
 二人共呑気屋で、お人好で、酒など飲んだ後などはただわけもなく女共に挑《いど》み掛っては躁《はしゃ》ぎ廻る程の男なんですが、それでもD50・444号の無気味な経歴に対しては少からず敬遠――とでも言いますか、内心よんどころない恐怖を抱いていたんです。で二人共最初の内はそんな恐怖など互いにオクビにも出さない様にしていたんですが、そうした余り気持のよくない事故が度重な
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