――で、つまりその釘の頭と里程標《マイル・ポスト》の両方に、それぞれ普通の藁縄の切れ端が着けられたままで残っておりました。
「……で、要するに」と保線課員が最後に附加えました。「……つまり犯人は、軌条《レール》の外側の止木《チョック》の釘と、反対側にある里程標《マイル・ポスト》との間へ縄を渡し、その軌条《レール》の中心に当る部分へ豚を縛りつけて轢殺したものであろう、と私達は思うのですが――」
 すると片山助役がこう言いました。
「じゃあ、どの豚公《ぶたこう》も皆殺される前までは生きてたんだね。でもそうすると、よくも縄で縛った位の事で逃げなかったものだ――犯人がカーブの地点を利用したのは、成る程、縛ってある豚を機関車に発見されて停車されるのを恐れたからだろうが、それでも、豚公の方では近附く轟音に驚いて、そんな藁縄位切ってしまいそうなものだ――」
 と、それから助役は、もうこの現場にはこれ以上の収穫がないと思ったのか、案内役へ、豚を盗まれた農家を訪ねたい旨を申出ました。
 やがて一行は桑畑の中の野道を通り越して、間もなく静かなB町の派出所へやって来ました。そこで厳《いかめ》しい八字髭の安藤
前へ 次へ
全44ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング