けないって頑張るんです。そこで裁判長から、証人に対して時間の点や、被告と対決さしてその人相に見誤りはないかなぞと念押しがあり、検事さんと弁護士の押問答があって、結局判決は次回に廻されたんです。……さあ、その間に検事さんはやっきになって、その「つぼ半」の女将と洗濯屋の書生ッぽとの間に、ナニか特別な関係でもあるんではないかってんで、刑事を八方に飛ばして調べたんですがサッパリ駄目……どう洗ったってまるッきりのアカの他人で、「つぼ半」の女将はまさに正当な証人ってことになるんです……全く、その書生ッぽは果報者《かほうもの》ですよ。おまけに証人は特製の別嬪と来てるんですから、冥利《みょうり》につきまさアね……でまア、そんなわけで、やがて洗濯屋は証拠不充分で無罪を判決され、ひとまずその事件もケリがついたんです……
 ところで……話はこれからが面白くなるんです。
 と云うのは――そんな事件があってから、左様《さよう》……半|歳《とし》もした頃のことでしたね……やはり、その刑事部の今度は三号法廷で、或る放火事件の公判があったんです……むろん係りの判事さんも検事さんも、前の窃盗事件の時とは違っていましたが
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