の、なんのとが[#「とが」に傍点]も関係もなさそうなアカの他人の傍聴人達を、グルッと取巻いちまったんです。一網打尽って形ですよ……いや全く、面喰《めんくら》いましたよ……すると、真ッ先にその傍聴群の真中へんにいた、こうゴルフ・パンツとかって奴をはいた男が、鳥打帽子をひッつかんでバタバタと逃げだしたんです。むろん、直ぐに押えられましたよ。すると青山さんが、その男の前へ行って、
「あんたが、福田きぬさんの御亭主でしょう? ちょっと身体検査をさして貰います」
 とすぐに警官の手によって上着をムキ取られてしまったんですが、するとどうです、チョッキのかくしから、茶色の封筒が一枚抜き出されて来たんですが、開けてみると、中から小さな紙片《かみきれ》が、なんでも十二、三枚出て来ましたよ……それでその紙片には「無罪 片岡八郎《かたおかはちろう》」だとか、「無罪 小田清一《おだせいいち》」だとか、「有罪 峰野義明《みねのよしあき》」だとか、まるでなんかの入れ札みたいな調子で、てんでに勝手な判決文みたいな、無罪だとか有罪だとかって文字が、名前と一緒に書いてあるんです……もっとも七分通りは無罪が多かったんです
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