かかわらず、金廻りは割によくて、つまり内福なんですね……暮し向きは、なかなか派手だってんですよ……
なんでも菱沼さんは、一度なぞ女将の留守を狙って、お客に化けて「つぼ半」へ上ったそうですよ……それで、女中をとらえて、それとなく調べてみたんだそうですが、この福田きぬってのは、むろんその店の経営者なんですが、これにその、よくあるやつですが「時どき来られる旦那様」ってのがやっぱりあるんですよ。それで、
「商売は不景気でも、女将さんは儲けるそうだね?」
って訊くと、まるでちゃあーんと仕込まれた九官鳥みたいな調子で、
「そりゃア旦那様が、競馬で儲けて下さるんでしょう?……」
ってその女中が云うんだそうです。
――成る程、これで旦那も女将も、競馬が好きだってことは判る……だがしかし、旦那が儲けるのか、女将が儲けるのか、そんなことはあて[#「あて」に傍点]になるもンか!
菱沼さんは、そう思いながら引挙げたそうですが、しかしこの程度のことが判っただけでは、まだまだまるで調べのラチはあきません。
そうこうするうちに、一方、次回公判の期日が目の前に迫って来ます……さアそうなると、菱沼さんは、ひとかたならずヤキモキしはじめました。そこで今度は「つぼ半」の女将の証言を、逆にひっくり返すような証拠はないかと探しにかかったんです……
けれども、むろんこいつが、なかなかみつかりません……いや、もともと女将が証人に立ったと云うのも、ご承知のように、なにもシッカリした証拠物件があるわけじゃアなく、どれもこれも、被告を見たとか見なかったとかッて云うような、ただ口先だけの証言ばかりですから、女将自身にとっても、うそ[#「うそ」に傍点]は云わぬと宣誓しただけで確かに見たとか見なかったとかの証拠はないと同じように、一方菱沼さんにとっても、それはみなうそ[#「うそ」に傍点]だ、と云い切るだけのチャンとした証拠はないわけなんです。でこの場合、女将の証言はあれはみなうそ[#「うそ」に傍点]だとやッつけるためには、なぜうそ[#「うそ」に傍点]だと云うその証拠――つまり、女将と被告達との間にそれぞれナニかの特別な関係があったとか、或はまたその他に、ナニか女将がそんなうそ[#「うそ」に傍点]を云わねばならなかったようなこれまた別のわけ[#「わけ」に傍点]がなくっちゃアならんわけです。ところがその特別の関係
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