ト《こ》められてゐる時《とき》、ほかの人《ひと》たちは清浄《しやうじやう》な肉身《にくしん》で上天《じやうてん》するのだらう。「世《よ》の人々《ひとびと》の御主《おんあるじ》よ、われをも罪《つみ》無《な》くなし給《たま》へ、この癩病《らいびやう》に病《や》む者《もの》を。」噫《あゝ》、淋《さむ》しい、あゝ、恐《こは》い。歯《は》だけに、生来《しやうらい》の白《しろ》い色《いろ》が残《のこ》つてゐる。獣《けもの》も恐《こは》がつて近《ちか》づかず、わが魂《たましひ》も逃《に》げたがつてゐる。御扶手《おんたすけて》、此世《このよ》を救《すく》ひ給《たま》うてより、今年《ことし》まで一千二百十二年《いつせんにひやくじふにねん》になるが、このあたしにはお拯《たすけ》が無《な》い。主《しゆ》を貫通《つきとほ》した血染《ちぞめ》の槍《やり》がこの身《み》に触《さは》らないのである。事《こと》に依《よ》つたら、世《よ》の人《ひと》たちの有《も》つてゐる主《しゆ》の御血汐《おんちしほ》で、この身《み》が癒《なほ》るかも知《し》れぬ。血《ち》を思《おも》ふことも度々《たびたび》だ。この歯《は》なら咬付《
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