oグダットの帝王は遠い其宮殿に待伏してゐる、或はあらくれの船乗の手に落ちて人買に売られる。
 主《しゆ》よ、教法の掟に従つて、言上する事を、容し給へ。必定、この小児十字軍は善い業《わざ》で無い。之が為に御墓の恢復は思ひもよらぬ。唯、正しき信仰の外端《へり》に※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]ふ浮浪の徒を増すばかりである。わが司祭等は之を保護しえまい。あの憐れなる者どもには確に悪魔が憑《つ》いた。彼等は山上の豕の様に群を成して断崖の方に走つて行く。主《しゆ》よ、君のよく知り給ふ如く、悪魔は好んで幼児を捉へる。曽つて、彼は鼠取の姿を仮りて、其笛の音にハメリンの町の子等を誘《さそ》つた。子等は皆※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]エゼルの河中に溺れ死んだとも言ふ。又は、或る山の中腹に封じ籠まれたともいふ。信仰無き者の呵責される処へ、悪魔が幼児等を導かぬやう、用心せねばならぬ。主《しゆ》よ、君のよく知り給ふ如く、信仰の改変は善い事で無い。信仰はひとたび燃立つ叢《くさむら》に現れて、直《すぐ》に幕屋の中に収められた。後また髑髏《されかうべ》が丘の上、君が唇に洩れたことはあるが、
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