われは昔の野山の精を
まなびて、こゝに宿からむ、
あゝ、神寂びし篠懸《すずかけ》よ、
なれがにほひの濡髪《ぬれがみ》に。
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   海光      ガブリエレ・ダンヌンチオ

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児等《こら》よ、今昼は真盛《まさかり》、日こゝもとに照らしぬ。
寂寞《じやくまく》大海《だいかい》の礼拝《らいはい》して、
天津日《あまつひ》に捧ぐる香《こう》は、
浄《きよ》まはる潮《うしほ》のにほひ、
轟《とどろ》く波凝《なごり》、動《ゆる》がぬ岩根《いはね》、靡《なび》く藻よ。
黒金《くろがね》の船の舳先《へさき》よ、
岬《みさき》代赭色《たいしやいろ》に、獅子の蹈留《ふみとどま》れる如く、
足を延べたるこゝ、入海《いりうみ》のひたおもて、
うちひさす都のまちは、
煩悶《わづらひ》の壁に悩めど、
鏡なす白川《しらかは》は蜘手《くもて》に流れ、
風のみひとり、たまさぐる、
洞穴口《ほらあなぐち》の花の錦や。
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底本:「海潮音 上田敏訳詩集」新潮文庫、新潮社
   1952(昭和27)年11月28日初版発行
   1968(昭和43)年1月15日20刷改版
   1977(昭和52)年6月30日35刷
※冒頭の献辞を「遙に此書を満洲なる森鴎外氏に献ず」としている異本が多いが、底本のままとしました。
入力:山口美佐
校正:Juki
1999年7月1日公開
2009年2月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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