のり》の夕《ゆふべ》 エミイル・ヴェルハアレン
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夕日の国は野も山も、その「平安」や「寂寥《せきりよう》」の
黝《ねずみ》の色の毛布《けぬの》もて掩《おほ》へる如く、物|寂《さ》びぬ。
万物|凡《なべ》て整《ととの》ふり、折りめ正しく、ぬめらかに、
物の象《かたち》も筋めよく、ビザンチン絵《ゑ》の式《かた》の如《ごと》。
時雨村雨《しぐれむらさめ》、中空《なかぞら》を雨の矢数《やかず》につんざきぬ。
見よ、一天は紺青《こんじよう》の伽藍《がらん》の廊《ろう》の色にして、
今こそ時は西山《せいざん》に入日傾く夕まぐれ、
日の金色《こんじき》に烏羽玉《うばたま》の夜《よる》の白銀《しろがね》まじるらむ。
めぢの界《さかひ》に物も無し、唯|遠長《とほなが》き並木路、
路に沿ひたる樫《かし》の樹《き》は、巨人の列《つら》の佇立《たたずまひ》、
疎《まば》らに生《お》ふる箒木《ははきぎ》や、新墾小田《にひばりをだ》の末かけて、
鋤《すき》休めたる野《の》らまでも領《りよう》ずる顔の姿かな。
木立《こだち》を見れば沙門等《しやもんら》が野辺《のべ》の送《おくり
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