フランシス・ヴィエレ・グリフィン
伴奏 アルベエル・サマン
賦 ジァン・モレアス
嗟嘆 ステファンヌ・マラルメ
白楊 テオドル・オオバネル
故国 同
海のあなたの 同
解悟 アルトゥロ・グラアフ
篠懸 ガブリエレ・ダンヌンチオ
海光 同
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海潮音
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燕の歌 ガブリエレ・ダンヌンチオ
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弥生《やよひ》ついたち、はつ燕《つばめ》、
海のあなたの静けき国の
便《たより》もてきぬ、うれしき文《ふみ》を。
春のはつ花、にほひを尋《と》むる。
あゝ、よろこびのつばくらめ。
黒と白との染分縞《そめわけじま》は
春の心の舞姿。
弥生来にけり、如月《きさらぎ》は
風もろともに、けふ去りぬ。
栗鼠《りす》の毛衣《けごろも》脱ぎすてて、
綾子《りんず》羽ぶたへ今様《いまよう》に、
春の川瀬をかちわたり、
しなだるゝ枝の森わけて、
舞ひつ、歌ひつ、足速《あしばや》の
恋慕の人ぞむれ遊ぶ。
岡に摘む花、菫《すみれ》ぐさ、
草は香りぬ、君ゆゑに、
素足の「春」の君ゆゑに。
けふは野山も新妻《にひづま》の姿に通ひ、
わだつみの波は輝く阿古屋珠《あこやだま》。
あれ、藪陰《やぶかげ》の黒鶫《くろつぐみ》、
あれ、なか空《そら》に揚雲雀《あげひばり》。
つれなき風は吹きすぎて、
旧巣《ふるす》啣《くは》へて飛び去りぬ。
あゝ、南国のぬれつばめ、
尾羽《をば》は矢羽根《やばね》よ、鳴く音《ね》は弦《つる》を
「春」のひくおと「春」の手の。
あゝ、よろこびの美鳥《うまどり》よ、
黒と白との水干《すいかん》に、
舞の足どり教へよと、
しばし招がむ、つばくらめ。
たぐひもあらぬ麗人《れいじん》の
イソルダ姫の物語、
飾り画《ゑが》けるこの殿《との》に
しばしはあれよ、つばくらめ。
かづけの花環こゝにあり、
ひとやにはあらぬ花籠を
給ふあえかの姫君は、
フランチェスカの前ならで、
まことは「春」のめがみ大神《おほがみ》。
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声曲《もののね》 ガブリエレ・ダンヌンチオ
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われはきく、よもすがら、わが胸の上に、君眠る時、
吾は聴く、夜の静寂《しづけき》に、滴《したたり》の落つるを将《はた》、落つるを。
常にかつ近み、かつ遠み、絶間《たえま》なく落つるをきく、
夜もすがら、君眠る時、君眠る時、われひとりして。
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真昼《まひる》 ルコント・ドゥ・リイル
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「夏」の帝《みかど》の「真昼時《まひるどき》」は、大野《おほの》が原に広ごりて、
白銀色《しろがねいろ》の布引《ぬのびき》に、青天《あをぞら》くだし天降《あもり》しぬ。
寂《じやく》たるよもの光景《けしき》かな。耀く虚空《こくう》、風絶えて、
炎《ほのほ》のころも、纏《まと》ひたる地《つち》の熟睡《うまい》の静心《しづごころ》。
眼路眇茫《めぢびようぼう》として極《きはみ》無く、樹蔭《こかげ》も見えぬ大野らや、
牧《まき》の畜《けもの》の水かひ場《ば》、泉は涸《か》れて音も無し。
野末遙けき森陰は、裾《すそ》の界《さかひ》の線《すぢ》黒み、
不動の姿夢重く、寂寞《じやくまく》として眠りたり。
唯熟したる麦の田は黄金海《おうごんかい》と連《つら》なりて、
かぎりも波の揺蕩《たゆたひ》に、眠るも鈍《おぞ》と嘲《あざ》みがほ、
聖なる地《つち》の安らけき児等《こら》の姿を見よやとて、
畏《おそ》れ憚《はばか》るけしき無く、日の觴《さかづき》を嚥《の》み干しぬ。
また、邂逅《わくらば》に吐息なす心の熱の穂に出でゝ、
囁声《つぶやきごゑ》のそこはかと、鬚長頴《ひげながかひ》の胸のうへ、
覚めたる波の揺動《ゆさぶり》や、うねりも貴《あて》におほどかに
起きてまた伏す行末は沙《すな》たち迷ふ雲のはて。
程遠からぬ青草の牧に伏したる白牛《はくぎゆう》が、
肉置《ししおき》厚き喉袋《のどぶくろ》、涎《よだれ》に濡《ぬ》らす慵《ものう》げさ、
妙《たへ》に気高《けだか》き眼差《まなざし》も、世の煩累《わづらひ》に倦《う》みしごと、
終《つひ》に見果てぬ内心の夢の衢《ちまた》に迷ふらむ。
人よ、爾《いまし》の心中を、喜怒哀楽に乱されて、
光明道《こうみようどう》の此原《このはら》の真昼《まひる》を孤《ひと》り過ぎゆかば、
※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《の》がれよ、こゝに万物は、凡《す》べて虚《うつろ》ぞ、日は燬《や》かむ。
ものみな、こゝに命無く、悦《よろこび》も無し、はた憂無し。
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