の光陰《ひかりかぐ》ろひてゆく蕭《しめ》やかさ。
文目《あやめ》もおぼろ、蕭やかに、噫《ああ》、蕭やかに、つくねんと、
沈黙《しじま》の郷《さと》の偶座《むかひゐ》は一つの香《こう》にふた色の
匂交《にほひまじ》れる思にて、心は一つ、えこそ語らね。
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銘文《しるしぶみ》 アンリ・ドゥ・レニエ
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夕まぐれ、森の小路《こみち》の四辻《よつつじ》に
夕まぐれ、風のもなかの逍遙《しようよう》に、
竈《かまど》の灰や、歳月《さいげつ》に倦《う》み労《つか》れ来て、
定業《じようごう》のわが行末もしらま弓、
杖と佇《たたず》む。
路《みち》のゆくてに「日」は多し、
今更ながら、行きてむか。
ゆふべゆふべの旅枕、
水こえ、山こえ、夢こえて、
つひのやどりはいづかたぞ。
そは玄妙の、静寧《せいねい》の「死」の大神《おほかみ》が、
わがまなこ、閉ぢ給ふ国、
黄金《おうごん》の、浦安の妙《たへ》なる封《ふう》に。
高樫《たかがし》の寂寥《せきりよう》の森の小路よ。
岩角に懈怠《けたい》よろぼひ、
きり石に足弱《あしよわ》悩み、
歩む毎《ごと》、
きしかたの血潮流れて、
木枯《こがらし》の颯々《さつさつ》たりや、高樫《たかがし》に。
噫《ああ》、われ倦《う》みぬ。
赤楊《はんのき》の落葉《らくよう》の森の小路よ。
道行く人は木葉《このは》なす、
蒼ざめがほの耻《はぢ》のおも、
ぬかりみ迷ひ、群れゆけど、
かたみに避けて、よそみがち。
泥濘《ぬかりみ》の、したゝりの森の小路よ、
憂愁《ゆうしゆう》を風は葉並に囁きぬ。
しろがねの、月代《つきしろ》の霜さゆる隠沼《こもりぬ》は
たそがれに、この道のはてに澱《よど》みて
げにこゝは「鬱憂」の
鬼が栖《す》む国。
秦皮《とねりこ》の、真砂《まさご》、いさごの、森の小路よ、
微風《そよかぜ》も足音たてず、
梢《こずゑ》より梢にわたり、
山蜜《やまみつ》の色よき花は
金色《こんじき》の砂子《すなご》の光、
おのづから曲れる路は
人さらになぞへを知らず、
このさきの都のまちは
まれびとを迎ふときゝぬ。
いざ足をそこに止めむか。
あなくやし、われはえゆかじ。
他の生《しよう》の途《みち》のかたはら、
「物影」の亡骸《なきがら》守る
わが「願《がん》」の通夜《つや》を思へば。
高樫《たかがし》の路われはゆかじな、
秦皮《とねりこ》や、赤楊《はんのき》の路《みち》、
日のかたや、都のかたや、水のかた、
なべてゆかじな。
噫《ああ》、小路《こみち》、
血やにじむわが足のおと、
死したりと思ひしそれも、
あはれなり、もどり来たるか、
地響《じひびき》のわれにさきだつ。
噫、小路、
安逸の、醜辱《しゆうじよく》の、驕慢の森の小路よ、
あだなりしわが世の友か、吹風《ふくかぜ》は、
高樫《たかがし》の木下蔭《このしたかげ》に
声はさやさや、
涙《なみだ》さめざめ。
あな、あはれ、きのふゆゑ、夕暮悲し、
あな、あはれ、あすゆゑに、夕暮苦し、
あな、あはれ、身のゆゑに、夕暮重し。
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愛の教 アンリ・ドゥ・レニエ
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いづれは「夜《よる》」に入る人の
をさな心も青春も、
今はた過ぎしけふの日や、
従容《しようよう》として、ひとりきく、
「冬篳篥《ふゆひちりき》」にさきだちて、
「秋」に響かふ「夏笛」を。
(現世《げんぜ》にしては、ひとつなり、
物のあはれも、さいはひも。)
あゝ、聞け、楽《がく》のやむひまを
「長月姫《ながづきひめ》」と「葉月姫《はづきひめ》」、
なが「憂愁」と「歓楽」と
語らふ声の蕭《しめ》やかさ。
(熟しうみたるくだものゝ
つはりて枝や撓《たわ》むらむ。)
あはれ、微風《そよかぜ》、さやさやと
伊吹《いぶき》のすゑは木枯《こがらし》を
誘ふと知れば、憂《う》かれども、
けふ木枯《こがらし》もそよ風も
口ふれあひて、熟睡《うまい》せり。
森蔭はまだ夏緑《なつみどり》、
夕まぐれ、空より落ちて、
笛の音《ね》は山鳩よばひ、
「夏」の歌「秋」を揺《そそ》りぬ。
曙《あけぼの》の美しからば、
その昼は晴れわたるべく、
心だに優しくあらば、
身の夜《よる》も楽しかるらむ。
ほゝゑみは口のさうび花《か》、
もつれ髪《がみ》、髷《わげ》にゆふべく、
真清水《ましみづ》やいつも澄みたる。
あゝ人よ、「愛」を命の法《のり》とせば、
星や照らさむ、なが足を、
いづれは「夜《よる》」に入らむ時。
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花冠 アンリ・ドゥ・レニエ
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途《みち》のつかれに項垂《うなだ》れて、
黙然《もくぜん》た
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