ねごと》し、「誉《ほまれ》」こそ
そがためによく、「若き世」めぐし、「命」惜《を》しとも。
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   春の貢     ダンテ・ゲブリエル・ロセッティ

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草うるはしき岸の上《うへ》に、いと美《うる》はしき君が面《おも》、
われは横《よこた》へ、その髪を二つにわけてひろぐれば、
うら若草のはつ花も、はな白《じろ》みてや、黄金《こがね》なす
みぐしの間《ひま》のこゝかしこ、面映《おもはゆ》げにも覗《のぞ》くらむ。
去年《こぞ》とやいはむ今年とや年の境《さかひ》もみえわかぬ
けふのこの日や「春」の足、半《なかば》たゆたひ、小李《こすもも》の
葉もなき花の白妙《しろたへ》は雪間がくれに迷《まど》はしく、
「春」住む庭の四阿屋《あづまや》に風の通路《かよひぢ》ひらけたり。

されど卯月《うづき》の日の光、けふぞ谷間に照りわたる。
仰ぎて眼《まなこ》閉ぢ給へ、いざくちづけむ君が面、
水枝《みづえ》小枝《こえだ》にみちわたる「春」をまなびて、わが恋よ、
温かき喉《のど》、熱き口、ふれさせたまへ、けふこそは、
契《ちぎり》もかたきみやづかへ、恋の日なれや。冷かに
つめたき人は永久《とこしへ》のやらはれ人と貶《おと》し憎まむ。
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   心も空に    ダンテ・アリギエリ

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心も空に奪はれて物のあはれをしる人よ、
今わが述ぶる言の葉の君の傍《かたへ》に近づかば
心に思ひ給ふこと応《いら》へ給ひね、洩れなくと、
綾《あや》に畏《かし》こき大御神《おほみかみ》「愛」の御名《みな》もて告げまつる。

さても星影きらゝかに、更《ふ》け行く夜《よる》も三つ一つ
ほとほと過ぎし折しもあれ、忽ち四方《よも》は照渡り、
「愛」の御姿《みすがた》うつそ身に現はれいでし不思議さよ。
おしはかるだに、その性《さが》の恐しときく荒神《あらがみ》も

御気色《みけしき》いとゞ麗はしく在《いま》すが如くおもほえて、
御手《みて》にはわれが心《しん》の臓《ぞう》、御腕《おんかひな》には貴《あて》やかに
あえかの君の寝姿《ねすがた》を、衣《きぬ》うちかけて、かい抱《いだ》き、

やをら動かし、交睫《まどろみ》の醒《さ》めたるほどに心《しん》の臓《ぞう》、
さゝげ進むれば、かの君も恐る恐るに聞
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